トヨタが手がける実証都市「Woven City」(ウーブン・シティ) |
[ Editor’s Column ] 2020年5月31日 |
■より良いクルマの製造から、その「製品の使われ方や使用環境の課題」に関心を持つのは、自動車メーカーにとって極めて自然な流れである。
・ 往年の業界リーダーであったGMは早くから都市交通問題の解決に力を注いできた。筆者は1970年代初頭や2014年「ITS世界会議デトロイト」の折、同社を訪問 取材した。
・ 日本ではあまり知られていないが、BMWは交通工学や都市計画の専門家を採用して研究に当たらせている。
(日本交通政策研究会「ドイツの自動車の街と企業の社会貢献-BMW、VW-」瀬尾 和寛2007年3月)
・ 自動車工業会では、交通事故、渋滞、大気汚染関連で多くの提案を行うとともに、古くから、学会に対しても研究助成を行っている。
■決算発表
日本の自動車業界の中でこの分野で突出しているのはトヨタである。
同社の2019年3月期の有価証券報告書では、
「今まで培ってきたリアルな世界と技術革新に対応するヴァーチャルな世界の総合力で「人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供する『モビリティカンパニー』にモデルチェンジしていきます。その実現に向けて新たな価値を創造する。」と記述している。(太字は筆者)
・ 今年1月、ラスベガスのCES2020で、静岡県裾野市の子会社 トヨタ自動車東日本(株)の70haの工場跡地にWoven Cityと名付けられた「コネクティット・シティ」を建設すると発表し注目された。同工場は2020年度には閉鎖が予定されている。
・ 4月にはスマートシティ建設にあたり、NTTと2,000億円の株式を相互に保有する資本提携を発表した。
・ 5月に行った決算発表の席上でも、新型コロナウイルスの影響で来期は、営業利益が先期比8割減の5,000億円の見通しだが、CASEやスマート都市づくりなどを含む研究開発費は従来通り11,000億円を予定していると発表した。(右図は決算発表資料)
(備考:研究開発費関連記事)
20年3月期のトヨタの研究開発費は1兆1,103億円だった。
このうち約4割を自動運転やコネクテッドカーなどのCASE関連が占める。19年度の独フォルクスワーゲン(VW)の研究開発費は143億600万ユーロ(約1.8兆円)、独ダイムラーは96億6,200万ユーロ(約1.2兆円)に達する。
トヨタの取り組みについては(計画の具体的内容は発表されていないが、)今のところ概ね好感をもって報道されている。
以下、対象になっている地域の特色、同社の過去20年間程度にわたる都市交通分野の取り組みの歴史と総論的課題、Woven Cityをマネジメントしていくうえで想定される課題について、3回程度でまとめる。
■裾野市の工場跡地とは
対象になっている、工場跡地の場所を同社HP、Google Mapで作成し以下に示す。
(備考)
① 東名裾野インターと国道246号に隣接し、JR御殿場線岩波駅の歩行可能圏内にある。
② 東京から高速道路で約1時間の距離
③ トヨタの先行開発拠点である東富士研究所に隣接している。
■地理的評価
上記3点挙げたように場所的には非常に恵まれた場所と言える。
▼まず第1は、トヨタのCASE開発拠点のための技術陣が集結する東富士研究所に隣接している点である。(同地区のテストコースは工場より先に建設されている)
また、本社技術部との交流は日常的に行われている。
▼第2は、高速道路、鉄道と隣接している点である。CESでの発表でプロジェクトに参加するデンマークの著名な建築家ビャルケ・インゲルス氏は、街を通る道を
(1)スピードが速い車両専用の道
(2)歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道、
(3)歩行者専用の公園内歩道のような道の3つに分類。
これらの道が網の目のように織り込ませることで、使い勝手も考慮した街作りとしている.
70Haの面積が広いか狭いかという議論は別に譲るとして、2,000人の居住を想定すると、周辺との交通が重要になる。
特にCASEやMaaSもによる人流改革、さらに現在実証中の物流改革を想定すると依存インフラの存在が重要である。
▼第3は、地方自治体との関係である。
街づくりには、いろいろなステークホルダーがいるが、行政の主管業務である。裾野市とは、町時代の1966年11月にテストコースを建設して以来の関係にあるし、市議会には2人の社員が議員として参加している。その意味でも、好位置にある。