トヨタが手がける実証都市「Woven City」(ウーブン・シティ) |
[ Editor’s Column ] 2020年5月31日 |
1.総合プロデュサーと事務局
◎今回のプランナーに世界的に著名な建築家、デンマークのビャルケ・インゲルス氏が挙げられる。
◎最近のトヨタのプロジェクトには、世界のビッグネームが登場しており、話題づくりとしては面白い。
しかし、実際の推進にあっては、日本の制度に詳しいどの設計事務所等が提携するのか?おそらく自薦他薦の多い中で、総合プロデュサーの人選と合わせて、プロジェクト構成が大きな肝になると思われる。
◎今まで社内で「Mobility Company」に向けて、技術・企画・営業部門、社外では、TRI-ADなど新会社がそれぞれの分野で取り組んでいる。
どの部署が事務局になるにせよ過去の知見を集めながら、プランナーのオリジナリティを生かす体制を組めるかがポイントになる。
2.民間による「特区」と「国家戦略特区」スーパーシティ
◎前述の「過去の事業撤退の例のフォロー」の項と少し重なるが、行政との距離感をどうするかも論点の一つだろう。国は、国家戦略特区のテーマの一つとして「スーパーシティ」を取り上げ、自治体に応募を呼び掛けている。
◎幸いWoven City の対象地区はトヨタの私有地であり、自由度は高い。
しかし、インフラ構築には、公共からの支援が欠かせない。
おそらく静岡県の裾野市は、特区に応募する可能性が高いと思われる。国としても歓迎であろう。しかし、官と民など各ステークホルダーの価値観をどう調整するか?前述の第2項の重要性が増してくる。
◎手元資金が豊富といわれるトヨタ、社長肝入りのプロジェクトとは言え、「投資と効果」「費用対効果」に関する検討は避けて通れない。元々市場経済原則が使えない分野である。「我慢がどこまでできるか?」が勝負と思われる。
3.自動運転のテストベッドか未来都市か、一般の人が暮らしたくなるまちか
◎CES2020で豊田社長は米ミシガン州の自動運転実験場「M City」ではなく、研究者、エンジニア、科学者たちが自動運転やMaaSを自由に試す事のできる「リアルな実験場」を目指していると説明した。
◎Woven Cityには、2,000人が居住する街を想定している。自動運転のテストベッドではなく、未来都市、自動運転社会の実験を行いたい、今まで官民のの研究会で多くのレポートやパース、動画が発表されている。
◎今回は、リアルなまちづくりである。「街とは何か」という思想を含めた整理が必要になる。未来都市に対する「価値観」「多様性への対応」(*1)が問われる。さらに、新型コロナでモビリティ、働き方に関する見方は激変する可能性がある。「パース」や「イメージ動画」「概念図」(*2)とは次元が異なる。フェイズONEとしては「テストベッド・プラス」ぐらいの取り組みでも大変チャレンジングなプロジェクトになると思う。
(*1) 「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」中間とりまとめ 概要①
https://www.mlit.go.jp/common/001295398.pdf
(*2)ITS世界会議2019シンガポールにおけるトヨタの概念図
●2020年4月1日、道交法、道路運送車両法が改正され、自動運転レベル3の自動運転が解禁になった。型式認証を受けた市販のレベル3の自動運転車が普通に公道を走ることが認められた。
●2020年5月27日、参院本会議でスーパーシティ(*)の実現をにらんだ国家戦略特区法の改正案が可決。
関係者からは、他国に比して「しょぼい」と批判も聞かれる実証実験を脱して、本格的なフィールドでの取り組みが期待される。
(*)「スーパーシティ」構想の概要
スーパーシティの基本的なコンセプトは以下の通り。
① これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組ではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組であること
② 一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組であること
③ さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであることという、この3要素を合わせ持ったものであると定義しており、これを「まるごと未来都市」と呼んでいる。