『自動運転社会』『都市・くらし』Vol2~目的関数~ |
[ Editor’s Column ] 2020年4月23日 |
自動運転社会を「シュミュレート」するにあたり重要な要件はいろいろあるが、まず大前提として、自動運転システム導入に関する"5W1H"言い換えると、自動運転車の定義と導入シナリオである。
■関係者間では、システム導入初期段階について、概ね以下の事項について暗黙の了解が得られていると思われる。
① 当面の導入エリア :大学構内や公園、イベント会場(オリンピック選手村)中山間地、自動車専用道など閉鎖空間。
② 交通目的は、買い物やレジャーなどの非日常。
③ 時期については、2025年頃から徐々に拡大。
(時期については、オリンピック東京2020を、起爆剤として、盛り上げる予定であったが、新型コロナで目算は外れた)
上記の条件から当面導入が期待できる具体的なシステムについて、ほぼ想定がつく。
▼WIRED社のAarian Marshall記者が次の6項目を挙げているが頷ける。
https://wired.jp/2019/06/10/self-driving-cars/
要約すると
① ルートが非常に限られている低速の自律走行シャトルバス
② 大学、住宅街、高齢者施設等の境界が明確な敷地内を走るクルマ
③ 自動運転タクシー
④ 農地・鉱山用ロボット
⑤ 配送ロボット
⑥ 長距離の自動運転トラック
■実現すべき価値(図1)
長期的に見た場合の自動運転社会が達成すべき価値、シミュレータの目的関数についてはVOL1原稿(図3)に掲載した以下の5項目が重要であると思う。
1) 移動機会の促進と多様性
移動は人間の基本的な欲求の一つである。
物理的な移動を伴わない通信の"トラヒック"を含めた増大を目指すか、あくまでも物理的な移動の増大を目的とするかは議論のあるところ。
最近のコロナウイルスの緊急対策に対する人々の反応から見ても、"物理的移動"の最大化が重要な要素ではないかと考えられる。
2) モータリゼーション弊害の克服......公共交通復活・市街地復活・交通事故
この項については、公共交通が、自動運転バスサービスやMaaSなどをどの程度主体的に導入し、競争力を持たせることができるかによって"景色"は相当変わると考えられる。
3) 既存政策との調整とシナリオ作成......移行措置・混合交通・受容性
自動運転車が本格的に普及すると、既存の制度や考え方との調整が不可避になる。
すでに指摘されているのは国土形成計画の基本概念である「コンパクト&ネットワーク」との調整である。
個別移動手段として完成度を増してくるクルマの普及を"成行"に任せた場合の想定図と政策との調整が肝要になる。
長期にわたる新旧システムの混合交通の制御は容易ではないだろう。
4) ビジネスモデル......採算・国際競争力・異業種競争
自動運転車の価格がどの程度になるか?
最近、基本技術要素の一つであるLidarは量産前提であるが、一万円を切るレベルまでコストダウンしていると言われている。3次元地図の更新方法についても低コスト方法が提案されている。車両としての価格がどの程度になるかにより、"景色"は大きく変わる。
5) 新しいインフラと財源......持続可能性
自動運転社会にあったインフラ整備の財源をどう調達するか、意図的かどうかはわからないが、あまり表面には出ていない。現在のインフラは、主として燃料税と財政投融資によって賄われているが、持続可能性の観点からも手当の検討が必要である。
■上記の5項目と視点は異なるが、持続可能なモビリティを検討すべき項目について、世界経済人会議(WBC)が2015年12月に発表した"サステーナブルモビリティの機能"の19項目は参考になる(図2)。
WBCの作業には、我が国の主要企業も参加している。自動運転車の普及は19項目の向上に寄与するものでなければならない。また、WBCの作業では、リスボン、バンコックなど5都市が具体的データで19項目を評価した。(図3)はインドール市のデータに基くレーダーチャートである。我が国の都市は?