自動運転の国土利用への影響 |
[ Editor’s Column 自動運転 高齢者とモビリティー ] 2017年8月21日 |
2050年ごろは「自動運転車社会」になっていると思われる。その時代には現在とは様変わりの社会・経済が現れているだろう。その一つが、国土の利用形態の変化である。
日本の戦後の国土計画は、1962年(昭和37年)に策定された第1次全国総合開発計画から、国土総合開発法に基づく全国総合開発計画を中心として、展開されてきた。新幹線と高速道路網を整備して国土の均等開発を行うという計画である。
その後、人口減少時代を迎え、新たな時代の要請に対応した国土計画が必要となり、2005年(平成17年)、抜本的に改正され、国土総合開発計画として、新たに国土形成計画が策定された。
さらに2015年(平成27年)8月には2014年(平成26年)7月に策定された「国土のグランドデザイン2050」等を踏まえて、第二次国土形成計画(全国計画)が閣議決定された。
同計画は「急激な人口減少」、「激甚災害発生も必須」の中で、世界最高水準の「豊かさ」と「安心」を確保する方策の一つとして策定された。また、対応を誤れば「国家の存亡にもかかわる」という強い危機感にも基づいている。
そのキーワードは「重層的かつ強靭なコンパクト+ネットワーク」「対流型社会」である。(右図)
▼一言でいえば、従来から進めてきた「コンパクトシティ化」に加え「都市間のネットワーク化」を図らなければ「地域が持続出来ない」という危機意識の下での苦肉の策と言える。
▼もう一つのキャッチフレーズである「対流促進型国土形成」、「広域ブロックの自立的発展を促進、広域ブロック相互間の連携を強化」も、圏域という階層でのネットワーク化ということを別の面からとらえたものと思われる。
しかし、前述の「国土のグランドデザイン2050」、第二次国土形成計画(全国計画)には、作業時期との関係から、最近注目を集めている「自動運転の動向」は検討対象には入っていない。
一方、2016 年 7 月にサンフランシスコで行われた自動運転シンポジウム・アセスメント分科会では、自動運転の直接的影響と間接的影響との間の最も重要な関係の特定と「良い成果」をより確実にするための投資と政策を検討することが掲げ、その中で「Land Use」についても言及している。(左図)
内閣府のSIP ADUS推進委員会では、自動運転による社会・産業への影響について東大生産技術研究所に委託し、2017年3月に報告書を公表した。その中で「自動運転と都市デザインの関係」について「コンパクトシティとの関係を整理することが必要である」と言及しさらに次のように述べている。「自動運転により、移動サービスのコスト構造が変化し、居住立地が変化する可能性がある。つまり、遠くに居住することで費用が低下し、居住立地がコンパクトシティに逆行、分散化する可能性が指摘されている」としながら結論的には「自動運転バス(Lv4)の維持管理・運行費用は、デマンド交通の費用を下回る必要がある。また、(Lv4)の車両の維持管理・運行費用の精査は不可欠である」として、社会全体のフロー・ストックのコストとベネフィットの面から、持続可能性については、否定的な見方を示している。
また、太田東大名誉教授(豊田都市交通研究所長)は、2017年5月自動車技術会春季大会での「自動運転が社会に与えるインパクト 」と題した講演で「都市の発展形態の変化」について言及している。(下図)
いずれにしても今後、このテーマは都市・交通計画関係者をまきこんだ議論が継続されるが、「少子高齢化・急激な人口減少→都市のコンパクト化」という現行の政策方向に100年に一度といわれる交通手段の破壊的イノベーションが影響を与えることは間違いない。