「自動走行車の社会的受容性」と学生 |
[ Editor’s Column 自動運転 ] 2017年7月18日 |
企業や施設、新しい技術が地域社会や国民の理解や賛同を得られることを、「社会受容性」と称している。最近、「社会受容性」は風力・原子力発電所等の施設に関して話題になっているが、ITS分野では「自動走行車の社会的受容性」が取り上げられている。
早稲田大学の松岡教授(都市環境イノベーション研究会代表)は、「環境イノベーション」の社会的受容性の構成要素を「技術」「市場」「制度」「地域」としている。
同教授は「ある社会技術が社会に受け入れられ、環境イノベーションにつながるためには、様々な価値基準がある中で誰が誰と、どのように意見交換し社会的合意形成を形成していくか、という社会的プロセスに着目する必要性があると考える。その際社会的プロセスを、1)技術、2)制度・政策、3)市場というマクロ的側面からの検証と4)地域というミクロ的側面からの検証に区分し探求する」ことを提案している。
自動走行について官民共同プロジェクトとして推進しているSIP Adusグループは一昨年から「セキュリティ」と合わせ新たに「社会的受容性」を共通の検討課題として追加し活動を開始している。昨年(平成28年)11月から今年2月には市民ダイヤログ」が3回にわたり開催された。
主催者はその目的として「自動走行システムについて、正確な情報を発信して市民の理解を促進し、市民との意見交換を通じて、自動運転がもたらす未来について『連想』『予測』『創造』する」と説明している。
この企画の特色は(司会はSIP 自動走行システム推進委員会構成員 清水和夫・岩貞るみこ氏で)1・2回の参加者が学生約20名であったことである。テーマはそれぞれ「自動運転の実現により変わる社会」「自動運転と社会とのつながり」であった。また、第3回は「ドライバーの権利と責任」がテーマで法律専門家、バス・運送会社等の事業者に加えてロースクールの学生が参加していた。Sip Adusのワークショップの構成は、先述の松岡教授の分類により整理すると「市場」「制度」を中心に議論を進めていることになる。
また、一連の企画の特色のひとつは一般のワークショップやシンポジュームと異なり参加者は学生が主体となっている点である。
筆者は第3回を取材した。テーマは専門領域にも関するテーマもあり学生にとって議論は容易ではないと思われるが、事務局の事前の準備や工夫もあり、主催者が意図している「自動走行が実用化する頃の未来を担う大学生」の意見交換が緒に着きつつあるという印象である。
翻って、ITS先進県とも言える愛知県(ITS推進協議会)では大学の協力を得ながら大学生向けの「移動講座」を2005年以降毎年開催し毎年約1,000名が受講している。各大学のテーマ、講義内容は講師、講座等によりそれぞれであるが、受講者のアンケートを読むと「自動走行」に関する理解度は質的に高い。また、同県では今年度県内10ヶ所で公道での自動走行の実証実験を行う予定である。若干自画自賛になるが同県は全国的に見ても将来のステイクホルダーである学生やいわゆるミレ二アル世代に「自動走行の理解」を働きかける環境が最も整っていると思う。