2030年の道路交通風景・・ 吉野彰氏のNHKラジオ講座から |
[ Editor’s Column 自動運転 ] 2018年2月16日 |
NHKラジオで 旭化成名誉フェロー・名城大教授 吉野彰氏の講演のアーカイブを聞いた。
タイトルは「電池が起こすエネルギー革命」昨年の10~12月にかけて、カルチャー講座「科学と人間」で12回放送された。
(同氏は今年の日本国際賞受賞が決定、4月に表彰される。)
▼主な論点は以下の通り。
◎リチウムイオン電池市場化の背景
今日のスマホがもたらしているIT革命は、1995年が起点である。当時の人は、今日の社会到来の可能性を誰も予想しなかったであろう。
1985~1990年、携帯電話メーカーのある人は〖LSI、ディスプレー、電池〗を3種の神器をといっていた。人間に例えると〖LSI=脳、ディスプレー=目と顔、電池=心臓〗ということになろう。
リチウムイオン電池に対する反応は「関心はあるが、すぐに採用には踏み切れない」という状況が続く。しかし、1995年の携帯電話のデジタル化、電圧が5.5Vから3.0Vという技術変化の中で急速に採用が進められた。
◎銀塩写真が消えたのは、写真に対する価値観の変化が要因
当時フィルムメーカーは、デジカメとの比較を徹底的に行った。
Q=画素数、C=フィルム焼き付け代とプリンター・インク代、D=写真プリント屋網から見て負けないと判断、ある時期逆に売り上げが伸び自信を持つ。しかしなぜ、2002年に突然銀塩写真が消えたか?一般的にはデジカメの登場と言われているがそうではない。
1995年にK社、2001年にS社がカメラ付き携帯を市場に出したが売れなかった。しかし2002年頃から急速に売れはじめる。写真は「撮影して、プリントするもの」から「撮影してメールで送るもの、ネット上に保存するもの」というキャッチコピーが顧客に受けいれられる。お客の価値観の変化である。
◎ET時代の新三種の神器と車の価値観の変化
IT革命の次に来るものは、ET(エネルギー)革命である。先陣を走るのは「自動車」である。「自動車にとってつらいこと」ではあるが避けられない。環境への関心の高まり、米国加州のCARV規制、欧州の2030年内燃機関車販売規制、中国の規制、そのうえ、自動車には自動運転の波が来ている。
この波の新3種の神器は〖パワーエレクトロニクス、AI、電池〗、更には「所有から利用」への変化も起きている。一方、今後消えていく『3種の鈍器』は『白熱電球、内燃機関、交流送電』である。
将来、無人タクシーが1分以内に玄関先に来るようになり、クルマに要する家庭のコストは、現在の九分の一の10万円/年となると見込んでいる。
▼以上は、筆者の関心分野の要約であるが、同氏は企業の中で長年、リチウムイオン電池の開発に携わり、開発から市場化まで苦労しているだけに説得力がある。最近出版された「日経Automotive3月号」2040年までのロードマップでは、ロボタクシーの販売が新車販売の23%を占めるとしている。約20年後の予測値に端数を含んでいるのは興味深い。
現在の自動車メーカーの内燃機関に関する技術開発努力を、蒸気機関に対抗し一時期需要を盛り返した「帆船効果」と同じとみるのか?
クルマに関して人間の基本的な欲求である所有欲が変化し、「共有」という新価値観が浸透するのか?
無人タクシーが一分で玄関先に来るようなサービスが実現するのか?
など議論は尽きない。しかし、いずれにしても、大変革の渦中にいることは確実である。