ITS-P21 レポート


ETC の現状と課題
〜高速道路料金引下げの効果的な実施に向けて〜


景気対策の一環として「ETCを使えば休日は、どこまでも1000円」という内容をはじめ『高速道路料金の引下げ案』に注目が集まっている。本稿「定期的な整理分析業務」でもETCが「経済政策の重要な手段となってきた」ということを記述したが、ますますその感が強い。

しかし、本施策はETC車両を対象としたものであり、全国におけるETC利用率が100%に達していない現状を鑑みると、施策による便益を享受できる道路利用者が限定されてしまうことは否めず、批判もある。12月12日の大臣の記者会見でも同様の質問が出されている。

つまり、本施策の効果を広く波及させるためには、ETCの普及・利用の促進が不可欠といえる。そこで、@既存資料等を用いて本施策の実施状況とETCの普及・利用の現状を整理し、高速道路料金引き下げの効果的な実施に向けて、ETCの取得・利用段階にみられる課題について、

あわせてA今年を通じて発生しているガソリン価格の乱高下がもたらす交通量への影響について整理した。



  1. 高速道路料金引下げ施策の概要

ETCのサービス開始(平成13330日)以降、需要喚起、地域・路線・区間の渋滞緩和、沿道環境の改善、地域活性化、物流効率化等を主な目的としてETC車両を対象とした高速道路料金引下げが実施されてきた。平成1710月に道路公団が民営化された後も、各道路会社では引き続き各種料金引下げを実施し現在に至っている。

他方、我が国の厳しい財政状況、行革推進法等に基づき道路特定財源の見直しが行われることとなり、平成1812月「道路特定財源の見直しに関する具体策」が閣議決定された。そこで高速道路料金の引下げなどによる既存高速ネットワークの効率的活用・機能強化のための新たな措置が求められたことから、料金引下げに伴う効果と影響、及びその際の減収額等の把握を目的として平成196月より料金社会実験が開始された。その後今年に入り、世界的な資源・食料価格の高騰、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界経済の成長鈍化による産業・家計への影響を緩和する緊急総合対策において「高速道路料金の引下げ」が実施されることとなった。


(主な料金引下げの例)

物流効率化:平日深夜割引の拡充、平日夜間割引時間帯の拡大、観光振興や地域の生活・経済支援:休日昼間割引の導入(土日祝日 917時、普通車以下:5割引。大都市近郊区間を除く。1日あたり適用は2回まで。1回の走行距離100km 以内の通行に適用)


  1. ETCの普及・利用の現状、課題

    1. ETCの取得状況

平成2011月時点での全国のETC車載器セットアップ件数累計は25,834,824件、うち再セットアップは3,980,142件である。

[月別特徴]

毎月30万件以上のセットアップがあり、特に3月が最も件数が多く昨年、今年ともに60万件を超している。年度末にセットアップが集中することが考えられる(図1)。

1 月別車種別セットアップ件数の推移 全国計

[車種別特徴]

普通車の件数が最も多く各月約8割のシェアで推移している(図1)。同期間の各車種の増減をみると、軽自動車が高い伸びである一方、大型車が最も小さく年度末を除くとほぼ横ばいである(2)。ちなみに、全国の自動車保有台数の増減(H20.3/H19.3)は軽自動車(乗用)が1.05倍で最も高い。保有車両数に占める新規セットアップ件数の割合(H20.3末時点)をみると、用途別では特殊、乗用、乗合、貨物の順で高く、車種では普通車が最も高く軽自動車や二輪車が低い、業態別では自家用より事業用の方が高い等の特徴がある (1)

2 車種別セットアップ件数倍率の推移 全国計

表1 保有車両数に占めるセットアップ件数の割合

注)平成20年版ETC便覧p196より作成。

[地域別特徴]

約1割の地域だけで1ヶ月間のセットアップ件数のほぼ半数を占めている。(図3)。

3 セットアップ件数都道府県別構成比(H20.3)


    1. ETCの利用状況

平成2011月時点での全国のETC利用台数は約567万台/日、利用率は75.4%である。

[道路会社別特徴]

週平均のETC利用率をみると、最高値は首都高速の82.5%、最低値は西日本の71.0%であり、全国(75.4%)を下回っているのは東日本と西日本の2社となっており、道路会社間で利用率に差が生じている(4)

[平休別特徴]

各社ともに平日が休日を上回っているが、平日・休日比(平日=1.0でみた場合、全国(0.93)を下回っているのは西日本(0.91)のみである。東日本の同比が0.95に留まっていることから、休日の利用状況が西日本全体の利用率を押し下げているといえる(図4)。ちなみに中日本では、直近1年間において平日に比べ休日の伸びが著しく約1割上昇した(図5)。

4 道路会社別平休別ETC利用率(H20.11

5 平休別ETC利用率の推移(NEXCO中日本)

[箇所別、月別特徴]

東日本の利用率を箇所別にみると、新座、浦和、三郷、習志野等主要本線料金所全てが、全国平均および東日本全体を上回る形で推移している。箇所間で利用率に差が生じており利用率の低い箇所が全体を押し下げているといえる。月別では、交通量が急増する8月にETC利用率が落ち込むという特徴がみられる(図6)。

6 ETC利用率、交通量の推移(NEXCO東日本)

[車種別特徴]

NEXCO3社の車種別利用率をみると、全社ともに大型・特大が90%以上、軽自動車は50%にも満たない。なお、車種ごとにみて各社間に大きな差はみられない(7)

7 車種別道路会社別ETC利用率(H20.11

    1. 高速道路料金引下げの効果的な実施に向けてのETCの課題

ETCを利用することにより、表2に示すような路線・区間毎の特性、利用時間帯・曜日等にきめ細かく対応した料金設定、利用者ニーズ、渋滞対策、環境対策など様々な目的に対応した多様な手法の実施が可能となる

2  ETC利用により実施可能となる主な手法

高速道路

頻度割引

一般向け

マイレージ割引、

多頻度割引

業務向け

大口割引、多頻度割引

時間帯・曜日割引

深夜割引、夜間割引、早朝夜間割引、通勤割引、平日オフピーク割引、休日割引

区間・経路割引

特定区間割引、環境ロードプライシング

高速道路以外

利用者番号サービス

公共駐車場、民間駐車場、フェリー乗船、荷捌き駐車場、事業所入構管理


これらの手法の効果的な実施を図り上位にある政策目標を達成するためには、ETCサイドからみてどのような対応が必要か以下に整理する。


ETC取得の低い時期、地域、車種への対応


ETC利用の低い時期、曜日、地域、車種への対応


IC等での渋滞・沿道環境の悪化への対応

料金引下げに伴い、一般道路に一旦降りる車両や深夜の料金所付近での待ち車両が増加し周辺の環境に影響を与える。待ち時間の増加により運転者の長時間勤務につながることも懸念される。道路会社単位でなく、高速道路ネットワーク全体において割引時間帯への過度な集中による影響を緩和する対策の検討が重要である。


管理コストの増加への対応

ETC利用増加に伴い、不正通行車両()に対する監視カメラ設置等、ETCカードの期限切れや未挿入による事故管理等の管理コストが増加する。管理コストの増加を回避するために、道路会社、道路管理者、交通管理者との連携により効率的かつ抑止効果の高い措置を講じていくことが重要である。


() 有人料金所も含めたETC不正通行件数は、高速道路6社のうち、首都が33万件で最も多く、以下、阪神(212000件)、東日本(126000件)、西日本(121000件)、中日本(67000件)、本四(4000件)である。ただし、2007年度の高速道路の不正通行は06年度に比べて11%減の計約86万件となり、ETC導入で不正通行が増え始めた01年度以降、初めて減少した。監視カメラ設置などが奏功したとみられる。


料金引下げに伴う減収への対応

減収は高速道路の貸付料の減額により対応されている()が、今年度高速道路3社の利益幅が減少したため、次年度への影響を回避するためにもより丁寧な対応が求められる。


() 現在、各道路会社は料金収入から会社の行う高速道路の維持管理費用を除いて、協定で定められた貸付料を機構に支払い、機構はこれを原資として債務の返済を行っている(図8)。

高速道路の貸付料の減額:102,660百万円(内訳:NEXCO東日本30,370NEXCO中日本37,695NEXCO西日本34,595

一般会計に承継される機構債務:97,771百万円

8 機構と会社における資産・債務の流れ


  1. 燃料価格がもたらす交通への影響

今年を振り返ると、原油をはじめとした世界的な資源・食料価格の高騰、4月のガソリン税の暫定税率失効、秋口に顕在化した世界的な景気後退等により、国内の燃料価格が乱高下し、それに伴い交通も大きな影響を受けたという印象が強い。


ここで、これらの現況を把握するために、燃料価格と交通量の推移を図9に整理する。

9 ガソリン小売価格、高速道路通行台数前年比の推移


ガソリン価格は昨年度初めから徐々に上昇し昨年末には150円台で推移していたが、今年4月にはガソリン税の暫定税率失効に伴い一旦130円近くまで下落した。その後5月以降急騰し8月には180円を突破したが、9月以降急落し直近11月には昨年度初めの価格に戻った。一方、交通量をみると、各道路会社の通行台数は減少傾向にあり、東日本、西日本では前年比100%を下回る形で推移している(9)


加えて、今年起きた燃料価格の高騰による交通への影響について次のような記述がある。


本稿「定期的な整理分析業務」の収集記事


「道路の将来交通需要推計に関する検討会報告書」道路の将来交通需要推計に関する検討会、平成201121(社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会第26回部会 平成201126日 資料)


高速道路料金、燃料価格ともに、交通需要の誘引或いは抑制に働く機能を有している。今年の実績を参考に、料金や価格が交通にもたらす影響について今後各所で検討を深めていく必要がある。


参考資料

  1. 「平成20年版ETC便覧」(財)道路システム高度化推進機構、平成209

  2. 「都道府県別車種別月別セットアップ件数実績」、「ETCの利用状況」、ETC総合情報ポータルサイト

  3. 石油一般小売価格、(財)日本エネルギー経済研究所石油情報センター

  4. NEXCO東日本、中日本、西日本、各社記者発表資料

  5. 「高速道路機構の概要 2008()日本高速道路保有・債務返済機構

  6. 「高速道路ネットワークの更なる有効活用に向けた料金社会実験の実施について」国土交通省道路局、平成1968

  7. 「『安心実現のための緊急総合対策』における高速道路料金の引下げについて」国土交通省道路局、()日本高速道路保有・債務返済機構、東日本高速道路()、中日本高速道路()、西日本高速道路()、平成201010


注) 図1,2,3,4,5,6,7,9および表1,2は上記資料をもとに作成した。